ディストピア的な作品を多く書いている作家だが、SF小説のような暗い未来を予言したいわけではなく、むしろ、自明と思われる常識や文化に対する疑いが創作の原動力になっているように思える。
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イッツ・オンリー・トーク
地球にちりばめられて
近未来と思しきヨーロッパを舞台に、言語とアイデンティティの問題を鋭く問う作品。と言われると読む気が失せるが、決して肩肘張ったお堅い小説ではなく、軽妙洒脱なユーモアが全編に満ちている。
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辺境メシ ヤバそうだから食べてみた
食に関する名著はいろいろあるが、そこに並ぶ(と同時に異彩を放つ)一冊と言ってもいいだろう。
ゴリラにムカデ、タランチュラと、食材もさまざまなら、ヤギの胃液のスープや、豚の生き血の和え物、ヒキガエルをミキサーにかけたジュースなど調理法も多種多様。何をどう食べるかには人間の叡智、というのは大げさかもしれないが、人間の積み重ねてきた歴史が詰まっている。登場する料理の珍しさに目が行くが、食感や風味など、丁寧かつ的確(か確かめようがないけど)な表現で、なんとなく食べた気にさせる筆力がみごと。
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夏物語
個人の決定が尊重される時代であっても、誕生だけは当人の意志で左右できない。ならば命を生み出すことは、一方的な欲望の押しつけなのか。
本書は芥川賞受賞作「乳と卵」と前半部が重なっている。続編というよりも、全面的に書き換え、大幅に加筆した物語と言った方が正確だろう。
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ほしのこ
海沿いの小さな小屋。社会の外側で暮らす父と娘。少女は父親から遠くの星から来たと言われて育つ。やがて父はいなくなる。入れ替わるように、どこかから女の子がやってくる。後半、物語の視点は揺れ動き、「わたし」は山に落ちた飛行機乗りになっている。生と死の影が混ざり合う。
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聖なるズー
衝撃的な内容だ。それは題材がセンセーショナルだからではなく、人間関係における本質的な部分を問うているから。種を越えた性愛を通じて、誰かと対等な関係を結ぶとはどういうことかを考えさせられる。
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掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集
2004年の死後、再評価が進む米国の作家。初の邦訳短編集。
レイモンド・カーヴァーをより泥臭く、スレたようにした印象。一方に想像力の極北というようなスケールの大きな物語があり、一方にこうしたミニマルで、個々の人生、日々の生活から生まれたような作品があるのが米文学の面白さ。
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ケーキの切れない非行少年たち
少し遅れて、話題の新書。著者は医療少年院などで働いてきた児童精神科医。タイトルや帯にあるように、丸いケーキを均等に切り分けられない子供たちがいるという事実が目を引くが、「最近の子供は学力が低下している」というようなありふれた内容ではない。著者は教育の本質的なあり方を問う。
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土に贖う
北海道を舞台に、移り変わっていった近代産業に従事した人々の姿を描いた短編集。「蛹の家」(養蚕)、「頸、冷える」(ミンク飼育)、「翠に蔓延る」(ハッカ栽培)、「南北海鳥異聞」(海鳥採取)、「うまねむる」(装蹄)、「土に贖う」(レンガ工場)。最後に現代を舞台とした「温む骨」。どの短編も短い中に産業の栄枯盛衰と人々のドラマが詰まっている。
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