第162回(2019年下半期)芥川賞受賞作。長崎の島を舞台とした家族の物語。納屋の草刈りをするために帰省した家族のとりとめのない会話に、過去の光景が挿まれる。
“背高泡立草” の続きを読む
国家を食べる
名著「カラシニコフ」などで知られ、ザ・外信記者という経歴・実績を持つ著者の回顧風ノンフィクション。イラク、パレスチナ、ソマリア、エチオピアなど、食にまつわる思い出を軸に、それぞれの国家の問題とそこに生きる人々の息遣いをつづる。
“国家を食べる” の続きを読む
機関車先生
瀬戸内の小さな学校に口のきけない青年教師がやってくる、というあらすじだけ聞くと、「いい話」を狙いすぎているような気がして身構えてしまうけど、紛れもない名作。
“機関車先生” の続きを読む
薄情
舞台は群馬。地方都市の郊外。タイトルに「薄情」とあるのは、主に語り手の宇田川静生の感情の起伏の無さ、人間関係の粘りの無さを表しているが、物語が展開する農村と市街地の境界の、景色の密度、人間の密度の薄さもその言葉にどこか重なる。
“薄情” の続きを読む
演歌の虫
著者は言うまでもなく「よこはま・たそがれ」などで知られる作詞家で、作家としても多くの作品を残している。本書収録の表題作と「老梅」で直木賞を受賞。他に「貢ぐ女」「弥次郎兵衛」が収録されている。
“演歌の虫” の続きを読む
深夜航路 午前0時からはじまる船旅
「深夜航路」というタイトルだけで旅情をかき立てられる。
夜行フェリーほど、旅をしている、という感覚を味わわせてくれる乗り物はない。フェリーに限らず、列車でもバスでも夜行には不思議な魅力がある。景色が見えないのになぜ旅の感慨がわくのか。そして、昼間の移動より記憶に残っていることが多いのはなぜだろう。
景色が見えないからこそ、なのかもしれない。著者も書いているように、夜の旅は内省的になる。内省する時間は自由の感覚とも結びついている。
“深夜航路 午前0時からはじまる船旅” の続きを読む
バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記
「日本の恥!」と駐妻たちに目の敵にされた伝説の雑誌、という帯の文句が目を引く。1999年にバンコクで創刊された日本語月刊誌「Gダイアリー」は、ジェントルマン(紳士)の日記という名前の通りというか、裏腹にというか、夜遊びネタの豊富さで知られたが、一方で下川裕治や高野秀行といった作家の文章や硬派なルポも載る総合誌だった(らしい)。
“バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記” の続きを読む
戯曲 福島三部作
第一部「1961年:夜に昇る太陽」、第二部「1986年:メビウスの輪」、第三部「2011年:語られたがる言葉たち」の三部からなる戯曲。戦後、福島の歩んだ半世紀が、ある家族の物語に重ねて描かれる。
“戯曲 福島三部作” の続きを読む
未明の闘争
川端康成の「雪国」の冒頭を、頭の固い(センスのない)国語教師が添削すると、「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国であった」と、「そこは」を補ってしまうというような話をどこかで聞いたか、読んだことがある。表現において「正しい日本語」というのはなく、小説や詩歌は言葉の地平を広げる。
それにしても、この保坂和志の小説はすごい。
“明治通りを雑司ケ谷の方から北へ池袋に向かって歩いていると、西武百貨店の手前にある「ビックリガードの五叉路」と呼ばれているところで、私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた。”
というのが冒頭の文章だが、「私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた」は明らかに助詞の使い方がおかしい。そしてこれよりもっとアクロバットな文章が頻出する。
“未明の闘争” の続きを読む
静かに、ねぇ、静かに
短編集。「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」の3本。SNSなどのネット空間と現実の両方に生きている現代人を諷刺する内容。
“静かに、ねぇ、静かに” の続きを読む