島田覚夫「私は魔境に生きた ―終戦も知らずニューギニアの山奥で原始生活十年」
これはすごい記録だ。戦争体験記として貴重であるだけでなく、読み物としても類を見ないほど面白い。
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読んだ本の記録。
島田覚夫「私は魔境に生きた ―終戦も知らずニューギニアの山奥で原始生活十年」
これはすごい記録だ。戦争体験記として貴重であるだけでなく、読み物としても類を見ないほど面白い。
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中山太郎「売笑三千年史」
神代から明治まで、売笑の歴史を総覧する大著。
膨大な史料を引用し、宗教的行為としての売色から始まり、巫女から巫娼へ、そして遊行婦、浮かれ女、白拍子、娼妓、芸妓……とその変遷を辿っていく。ただの性産業の歴史ではなく、婚姻形態の移り変わりや、武士の台頭など社会の変化を映し出していて興味深い。
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イーサン・ウォッターズ「クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか」
「心の病」とその治療法は世界共通なのか。共同体や文化、時代に属するものではないのか。
著者は、香港での拒食症の流行や、日本における「うつ病」キャンペーンなど大きく四つの事例を挙げ、欧米流の精神医学の輸出の弊害を告発する。
欧米においてもボーア戦争や南北戦争など、時代によって心の反応は違っていた。現在、地域固有の症状は姿を消しつつあり、欧米の精神医学が、世界各地で苦しみに意味を与えていた物語や考え方から人々を切り離す嵐となっている。
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エリック・ワイナー「世界しあわせ紀行」
幸福の探求は不幸の主たる原因の一つ。それを承知で著者は“幸せな土地”を求める旅に出る。
GNHを掲げるブータン、税金の無いカタール、極寒のアイスランド、マイペンライのタイ、インドのアシュラム……
幸せな人と不幸な人を分ける境はどこにあるのだろう。そしてそれに社会制度や文化、風土が影響を与えるのだろうか。そもそも幸福こそが最も価値あるものなのか。
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石牟礼道子「葭の渚」
石牟礼道子の自伝。といっても内容は「苦海浄土」を書くまでで、幼い頃の描写が多くを占める。
天草の海、零落した家、避病院と火葬場近くの新居、気がふれた祖母のおもかさま、早世した伯父、戦争、戦災孤児の少女との出会い……
悲惨な体験も著者の語りにはどこか光が差している。
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河竹登志夫「黙阿弥」
河竹黙阿弥の評伝だが、天覧劇を巡る関係者の思惑など、江戸~明治の大変動期を描いた読み物としても無類の面白さ。
時代の転機は歴史上数あれど、これほど短期に、作為的に文化の変革が試みられたことは少ない。義太夫や花道は陋習なのか。歌舞伎は荒唐無稽なのか。演劇改良運動など、歌舞伎のあり方をも一変させようとする欧化の嵐の中で、江戸を代表する作者は嵐を黙してやり過ごし、引退を元の木阿弥として死ぬ直前まで書き続けた。
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