○○○○○○○○殺人事件

早坂吝「○○○○○○○○殺人事件」

タイトルの伏せ字も読者への挑戦。さまざまな趣向を懲らしたミステリー。

南の島でのオフ会で殺人事件が起こる。クローズドサークルもののど真ん中のシチュエーションだが、後半で謎が明らかになるにつれて、突っ込みどころがどんどん湧いてくる。核となるトリックにも苦笑い。でも、この馬鹿馬鹿しさは嫌いじゃない。

<以下ややネタバレ>
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文章読本さん江

斎藤美奈子「文章読本さん江」

谷崎潤一郎、三島由紀夫、丸谷才一ら文豪の「文章読本」から、本田勝一の名著「日本語の作文技術」、さらにレポートや論文の書き方といった本まで、古今の文章指南書を滅多切り。口語文の誕生前後から現代まで文章術の本の系譜をたどり、国語教育の歴史にまで踏み込み、文章という表現の本質を探る。王様が裸だと喝破し、「良い文章」という目標を脱構築する。軽妙な文章だが、非常に充実した内容。
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文章読本

丸谷才一「文章読本」

「作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、それに盡きる。事実、古来の名文家はみなさうすることによつて文章に秀でたので、この場合、例外はまつたくなかつたとわたしは信じてゐる」

文章術の本は、作家、記者、ライター、学者など、さまざまな立場の人の手で数え切れないほど書かれてきたし、今も新刊が続々と誕生している。その大きな流れの一つとして、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫など、作家による「文章読本」がある。その中でも丸谷才一の文章読本は、作家系の本としては、谷崎らの先行作の内容を踏まえていることもあり、決定版と言っていいだろう。
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千の扉

柴崎友香「千の扉」

ふとしたことから、高齢化が進む団地で夫と暮らし始めた39歳の女性の日常を綴る。特別なことは何も起こらない。特別な人間も出てこない。人探しという物語の軸はあるものの、そこに劇的な展開はない。

著者の筆は過去と現在を行き来しながら、団地とそこで暮らした人々の記憶を浮かび上がらせる。ひと言声をかわしただけの人物にも、すれ違っただけの人にも、人生があり物語がある。
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八月の銀の雪

伊与原新「八月の銀の雪」

いま自分がいる場所、いま自分が見ている光景、いま自分が知っていること、それが全てではないことを自然科学の知識(学問全般にも当てはまるけど)は教えてくれる。それは時に、目の前しか見えなくなった人生の視野を開き、心を軽くしてくれる。科学者らしい短編集。

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掌の小説

川端康成「掌の小説」

掌編小説集。収録作は百編余。散文詩というような、限界まで削ぎ落としたような作品群で、気の利いたオチのあるショートショートではない。軽い読み物のつもりで手に取ったものの、いざ開いてみると一編、一編、読むのに体力が入り、一年以上かけて少しずつ読み進めてきた。
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