宵山万華鏡

森見登美彦「宵山万華鏡」

タイトル通り、宵山のにぎわいの中で起こる不思議な出来事が万華鏡のようにくるくると綴られていく連作短編集。幻想的な話、馬鹿げた話が混ざり合って、宵山の雑踏の中に自分も身を置きたくなる。

夫婦善哉

織田作之助「夫婦善哉 完全版」

商家のぼんぼんの駄目男、柳吉と、勝ち気で一途な元芸者の蝶子。商売を始めても柳吉が放蕩して使い果たしてしまい、生活は何度も行き詰まる。どうしようも無い話が延々と続いていくのに、なぜかとても魅力的。終盤の「一人より女夫(めおと)の方が良えいうことでっしゃろ」の台詞がぐっとくる。
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千年の愉楽

中上健次「千年の愉楽」

“死んだ者や生きている者らの生命があぶくのようにふつふつと沸いている”路地の産婆、オリュウノオバと若くして死ぬ中本一統の澱んだ血。改行や句読点が少なく読誦のように紡がれる文章。小説としてのコンセプトは紀州版「百年の孤独」だろうけど、文章の端々から土地の匂い、“夏芙蓉”の香りが漂ってくるよう。
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族長の秋

ガブリエル・ガルシア=マルケス「族長の秋」

独裁者の物語。「百年の孤独」と同じように神話的だが、なんと饒舌なのだろう。「われわれ」から始まり、一人称も時間軸も混沌として、誰が話しているのか分からない文体。改行も無く、ブラックで超現実的なエピソードが延々と続く。濃密で、やかましいくらいなのに、そこには強烈な孤独が滲む。
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犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」

「犯罪者」の人生を描く連作短編集。哀しみ、希望、不気味さ、いろいろな要素があるけど、情景描写がほとんど無く、多くの人の人生を淡々と語っていくその文章の速度に引き込まれる。久しぶりに海外の短篇集で本当に面白いと思った。登場人物に移民がたくさん出てきて、非常に現代ドイツ文学らしい作品でもある。

安政五年の大脱走

五十嵐貴久「安政五年の大脱走」

断崖絶壁の山の上、天然の要塞に捉えられた南津和野藩士51人。武士の誇りや友情や恋やその他諸々をストレートに詰め込んだ娯楽時代小説。物語の核となる場面は穴を掘るだけだし、展開にひねりも無いけど、やたらと面白い。

ダンス・ダンス・ダンス

村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」

3部作や他の作品は何度か読み返してきたが、この作品はずいぶん久しぶり。

後日譚という自由さからか、登場人物のキャラ作りも含めて、愉悦的とも感じられるほど饒舌な語り口。

これ以前の作品で描かれたぼんやりとした喪失感は、はっきりと死という形で周りにあふれ出す。同時にこれまでディスコミットメントを徹底し、表面的には無感動だった主人公は現実への執着と焦燥感を見せる。
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