「高齢者の性」をテーマとして謳い、実際にそこが注目されてもいるが、描かれているのはもっと本質的な孤独、周囲の目と自我の摩擦の苦しみ。性は要素の一つに過ぎない。(高齢者の性を描いた作品はそもそも珍しくないし、本作の性に関する描写は実は少ない)
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アリスマ王の愛した魔物
SF短編集。ライトノベルやヤングアダルト(青少年向け)に位置づけられる作品かもしれないが、それぞれに設定が面白く、年齢やSF趣味の程度を問わず楽しめる。
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おらおらでひとりいぐも
東北で生まれ、東京五輪の年に上京、夫と死に別れ、子供とも疎遠となり、一人老いていく。74歳の「桃子さん」のとりとめのない思考を綴った小説だが、独特の文体による語りの力が、年齢や性別を超えて読者を戦後の日本社会を生きてきた一人の女性の境地に誘う。
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新編 越後三面山人記
ダムに沈んだ山人集落の記録。著者は新潟県北部、朝日連峰の山中にある三面集落に1985年の閉村直前に長期滞在し、16ミリフィルムでその生活を記録した。狩りの習俗から、採集、農耕、日常生活まで、村人の語りを中心に丁寧にまとめており、失われた山村の生活の貴重な証言となっている。
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津波の墓標
時間が経つにつれて、言葉が記憶となり、歴史となっていく。過去は日々再構成され、集団の記憶となる。それに抗うためには、個々の体験を残していくしかない。
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あふりこ
川瀬慈編著「あふりこ フィクションの重奏/遍在するアフリカ」
人類学者5人の共著だが、研究報告ではなく、フィクション。
収録作は、川瀬慈「歌に震えて」「ハラールの残響」、村津蘭「太陽を喰う/夜を喰う」、ふくだぺろ「あふりか!わんだふる!」、矢野原佑史「バッファロー・ソルジャー・ラプソディー」、青木敬「クレチェウの故郷」の6編。エチオピア北部で歌を生業とする人々「ラワジ」や、西アフリカの妖術師など題材はさまざま。いずれも実験的な構成、内容で、小説、随想、散文詩などの境界を越えて、読み手を多様なアフリカの姿に誘う。
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かか
背高泡立草
第162回(2019年下半期)芥川賞受賞作。長崎の島を舞台とした家族の物語。納屋の草刈りをするために帰省した家族のとりとめのない会話に、過去の光景が挿まれる。
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国家を食べる
名著「カラシニコフ」などで知られ、ザ・外信記者という経歴・実績を持つ著者の回顧風ノンフィクション。イラク、パレスチナ、ソマリア、エチオピアなど、食にまつわる思い出を軸に、それぞれの国家の問題とそこに生きる人々の息遣いをつづる。
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機関車先生
瀬戸内の小さな学校に口のきけない青年教師がやってくる、というあらすじだけ聞くと、「いい話」を狙いすぎているような気がして身構えてしまうけど、紛れもない名作。
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