少し遅れて、話題の新書。著者は医療少年院などで働いてきた児童精神科医。タイトルや帯にあるように、丸いケーキを均等に切り分けられない子供たちがいるという事実が目を引くが、「最近の子供は学力が低下している」というようなありふれた内容ではない。著者は教育の本質的なあり方を問う。
“ケーキの切れない非行少年たち” の続きを読む
土に贖う
北海道を舞台に、移り変わっていった近代産業に従事した人々の姿を描いた短編集。「蛹の家」(養蚕)、「頸、冷える」(ミンク飼育)、「翠に蔓延る」(ハッカ栽培)、「南北海鳥異聞」(海鳥採取)、「うまねむる」(装蹄)、「土に贖う」(レンガ工場)。最後に現代を舞台とした「温む骨」。どの短編も短い中に産業の栄枯盛衰と人々のドラマが詰まっている。
“土に贖う” の続きを読む
森があふれる
妻の体から発芽して文字通り森になる、というとカフカや安部公房的な不条理小説のようだが、不条理を描くというよりはストレートな恋愛小説。森はメタファーを具象化した小説的な仕掛けに過ぎない。ただ、その光景は美しい。
“森があふれる” の続きを読む
傲慢と善良
宮本常一を旅する
宮本常一の足跡を訪ねる旅。ただの紀行文ではなく、宮本民俗学を補い、現代につなぐ優れた仕事。
宮本は民俗学者であると同時に稀代の旅人でもあり、優れた農業・地域振興指導者の顔も持っていた。宮本が何を記録し、同時にそれぞれの土地に何を残していったのか。著者は宮本の膨大な資料を読み込んだ上で各地を回り、宮本が見たもの、見残したものを探っていく。
“宮本常一を旅する” の続きを読む
サラバ!
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー
今年は劉慈欣の「三体」が話題になったものの、中国のSFと言われて具体的な作品が思い浮かぶ人は多くないだろう。そもそも中国文学の邦訳は言語圏の大きさに比して極めて少ない。
本書は中国の作家のSFアンソロジー。7作家の短編13本とともに、SF論的なエッセイや各作家についての解説も収録されている。中国文学の今を伝えるとともに、SFというジャンルの幅と奥行きを示す充実した一冊となっている。
“折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー” の続きを読む
橋のない川
「先生、わしは、エッタやいわれるのが一番つらいネ。なんぼ自分でなおそう思うても、エッタはなおせまへん。先生、どねんしたらエッタがなおるか、教えとくなはれ」
「なア、同じ人間でもえらい違いや。天皇さんは、糞でも宝物にされなはるし、こちとらは、作った米さえ、くさいの、汚いのときらわれる」
明治時代末から大正時代にかけての被差別部落の暮らしを描き、1961~93年に計7部を刊行、800万部を超すベストセラーとなった大河小説。
“橋のない川” の続きを読む
「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」
仲野徹・大阪大教授と大阪にまつわる専門家らの対談集。テーマは歴史、言葉、食から、音楽、落語、花街、鉄道など多岐にわたる。気楽な読み物であると同時に、内容はディープ。「面白い対談」の見本のような一冊。
“「仲野教授の そろそろ大阪の話をしよう」” の続きを読む
キュー
石原莞爾の思想が語られる戦中・戦後、心療内科医の主人公が奇妙な体験をする現代、「個」が廃止された地球で現代人のGenius lul-lulがコールドスリープから目を覚ます未来の三つの時代が交互に描かれる。
効率、必然で歴史が進んでいくとしたら、人間を人間たらしめているのは、それに抗う力なのかもしれない。
“キュー” の続きを読む
