未来の年表

河合雅司「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」
「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること」

  

高齢化、人口減少が進む日本社会の今後の姿を、統計を元に時系列で予測する。

2024年には3人に1人が65歳以上となり、日本は本格的に高齢者の国になる。生産年齢人口は2015~2040年の25年間で約1750万人減少し、労働力不足も深刻化していく。2033年には全国の住宅の3戸に1戸が空き家になり、2040年には自治体の半数が消滅の危機に。都市部にいるとまだ危機感が薄いが、2025年には東京でも人口が減少し始め、2045年には都民の3人に1人が高齢者となる。輸血用血液や火葬場の不足も深刻化する。

現在1億2600万人いる総人口は2065年に8800万人まで減り、2.5人に1人が高齢者となる。そう言われてもこれまでは遠い未来の話のような気がしていたが、今の小学生は2065年時点でまだ50代で、今年生まれた子は46歳。彼らは限界集落化していく社会の中を生きなくてはならない。
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日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学

小熊英二「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」

正社員が減り、非正規労働者が増えたと言われる。だが、実際の統計では正社員の数は減っていない。総務省の労働力調査によれば、正規従業員の数は1984年に3333万人、2018年には3476万人。一方で非正規労働者は1984年の604万から、2018年に2120万と急増している。著者の指摘によれば、この30年あまりで実際に減ったのは正社員ではなく自営業や家族経営の零細企業で、雇用形態の変化というより、もっと大きな社会の変化が進んでいる。

日本社会がどのような歴史的経緯で今のような形になったのかを、終身雇用、年功賃金、新卒一括採用、定期人事異動、大部屋職場など、主に雇用形態の成立過程から説き明かす。働き方の仕組みは、社会保障や教育、個人のアイデンティティも規定しており、まさに日本社会のしくみといえる。高校生、大学一回生くらいの教科書にしたい一冊。

オーラル・ヒストリーである「生きて帰ってきた男」とあわせて読むと、戦後日本社会の実相がよく分かる。
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なめらかな世界と、その敵

伴名練「なめらかな世界と、その敵」

SF界の新星として話題になっている著者の短編集。

表題作は、可能世界を自由に行き来することができるようになった人々が暮らす世界が舞台。並行世界や可能世界というと重厚なイメージが強いが、無数の「こうだったかもしれない世界」を飛び回る少女たちの青春を生き生きと描いている。
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大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済

高槻泰郎「大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済」

江戸時代の堂島米市場は世界初の先物取引市場と言われることもある。米を証券化した米切手が在庫米以上に発行され、市場を形成していた。やがて売り買いの約束だけで相場変動の差金をやりとりする「帳合米商い」や時間外取引が発達し、買いたい時に買い、売りたい時に売ることのできる流動性の高い市場が完成した。現物をやりとりすることを当初から想定してない帳合米商いは、商品価格の変動リスクをヘッジするための先物取引より、むしろ現代の指数取引に近い先鋭的な仕組みだった。
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わたしが・棄てた・女

遠藤周作「わたしが・棄てた・女」

終戦後間もない東京。大学生の吉岡は、世間知らずな少女、森田ミツと体の関係を結ぶが、田舎臭いミツに嫌悪感を覚え連絡を絶つ。やがて吉岡は就職先の重役の娘と結婚するが、ミツは一途に吉岡のことを思い続けている。

とここまで書けば身勝手な男の姿を描いた通俗小説だが、ミツの人物像が掘り下げられていく中で、物語は哲学的、宗教的な様相を帯び始める。
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この世にたやすい仕事はない

津村記久子「この世にたやすい仕事はない」

前職で燃え尽きた36歳の女性が職安で紹介された仕事を転々としていく連作短編集。「コラーゲンの抽出を見守るような仕事」というふざけた要望に対して紹介されたちょっと奇妙な五つの仕事を通じて、主人公は自分の居場所を探していく。
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この人の閾

保坂和志「この人の閾」

著者の小説は変わっていて、物語的な起伏がほとんどないだけでなく、登場人物の散漫な会話や日常生活がだらだらと綴られるものが多いのだけど、平易な文体と相まってそれが心地良く、いつまでも読んでいたいという気にさせられる。登場人物のとりとめもない思索は、不思議と読み手の思考も刺激する。
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