恥ずかしながら、「新しき村」が今も残っていることを最近まで知らなかった。
武者小路実篤の「新しき村」は、文化的で個人が尊重される理想の共同体を掲げ、1918年に宮崎県の山中に開かれた。共有財産・共同作業で生計を立て、余暇を学問や芸術などに使うことを目指した村は、運営が軌道に乗り始めたタイミングでダムに一部が沈むことになり、39年に埼玉県毛呂山町に移転。戦後もその取り組みは続き、今年で100周年を迎える。
“「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実” の続きを読む
読んだ本の記録。
恥ずかしながら、「新しき村」が今も残っていることを最近まで知らなかった。
武者小路実篤の「新しき村」は、文化的で個人が尊重される理想の共同体を掲げ、1918年に宮崎県の山中に開かれた。共有財産・共同作業で生計を立て、余暇を学問や芸術などに使うことを目指した村は、運営が軌道に乗り始めたタイミングでダムに一部が沈むことになり、39年に埼玉県毛呂山町に移転。戦後もその取り組みは続き、今年で100周年を迎える。
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水谷竹秀「だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人」
バンコクにある日本企業のコールセンターで働く人々を取材したノンフィクション。
2000年代に入ってから、日本企業が人件費の節約のため、コールセンターをバンコクに移すケースが増えたという。そこで働くのは日本からタイに渡った30代、40代を中心とした男女。日本に居場所がなかったと語る彼らの半生を通じて、現代の日本社会の生きづらさが浮き彫りになる。
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ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。
“信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来” の続きを読む
コンゴで幻獣を探し、東南アジアのアヘン栽培村に住み込み、無政府状態のソマリアを旅する。規格外の旅を軽やかな筆で記してきた高野秀行が、日本で知り合った異国からの友人との思い出を綴ったエッセイ集。
BUTOH(舞踏)に憧れ、自分探しの果てに日本にたどり着いたフランス人から、出稼ぎのペルー人、故国を追われたイラク人まで。登場する人々それぞれのエピソードを通じて、東京はトーキョーに姿を変え、日本の生きづらさも、生きやすさも、改めて浮かび上がる。体当たりのルポとは違う味わいのある“世話物”の一冊。
“異国トーキョー漂流記” の続きを読む
映画というより映画館にまつわるエッセイ集。銀幕に憧れて育ち、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトを7年間していた著者の映画愛と映画館愛にあふれた一冊。もぎり時代の思い出を交えつつ、旅先で映画館を訪ねた際のエピソードなどが軽妙な文章で綴られる。
“もぎりよ今夜も有難う” の続きを読む
飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。
「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。
大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
“彼の娘” の続きを読む
社会学者としてさまざまな人生に触れてきた著者の小説デビュー作。エッセイ「断片的なものの社会学」で綴られたものと同じまなざしで、都会の片隅に寄る辺なく漂う人生が描かれている。
“ビニール傘” の続きを読む
辻邦生の初期の長編。中世のタピスリに惹かれ、北欧で染織工芸を学ぶ支倉冬子の魂の遍歴を、彼女が失踪する前に残した膨大な手記と手紙から浮かび上がらせる。
知人男性の視点を通して一筋の物語になってはいるが、おそらくこの小説は、どこか一部分を切り出しても成立するだろう。著者自身の死生観や芸術論が、作品の隅々にまで刻み込まれている。
“夏の砦” の続きを読む
登山家で猟師でもある著者の初の小説。命を巡る普遍的な問いを突きつけてくる表題作と、高峰での極限状態を描いた「K2」の2編を収録。
小学6年生の息子を連れて鹿狩りに来た週末ハンターが、死体を埋めに来た詐欺グループの男と遭遇する。男は息子を人質に取り、自分の手元には猟銃がある。獣の命を奪うのが許されるなら、なぜ殺人犯の命を取ることは許されないのか。
個人的にハンターの最後の選択には共感しないが、それでも自分ならどうするかという問いからは逃げられない。読み手を物語に巻き込み、当時者にしてしまう力を持った問題作。
“息子と狩猟に” の続きを読む
「ディアスポラ」に続いて、グレッグ・イーガンをもう一冊。
表題作を含む9編を収録した日本オリジナルの短編集。「ディアスポラ」は物理学や宇宙論の知識が無いと理解できない描写も多かったが、こちらは特定のアイデアや疑問をもとに発展させた作品が中心で、SFになじみのない読者でも取っつきやすい一冊となっている。
“しあわせの理由” の続きを読む