一人称単数

村上春樹「一人称単数」

どれも著者自身を思わせる一人称の人物が語り手。久しぶりの一人称で書かれた前作長編「騎士団長殺し」がセルフパロディのような要素をたくさん盛り込みつつ、以前の作品とは決定的に違う手触りになっていたように、短編も一周回って別の場所にたどり着いたような著者の今を感じさせる。
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破局

遠野遥「破局」

体育会系の青年。一見すると心身共に健康で、人当たりも良い人物だが、読んでいてどこか気持ち悪い。他者に(どころか自分に対しても)興味がなく、目の前のことにだけ反応して生きている。

「他者に迷惑をかけないが自己中心的」という人物像は、極めて現代的。
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神戸・続神戸

西東三鬼「神戸・続神戸」

著者の西東三鬼(1900~62)は俳人。「神戸」は、戦後間もない1954~56年に「俳句」誌に連載された文章。戦中に神戸の「国際ホテル」で過ごした日々の回想で、文章そのものは短いが、登場人物の濃さと、それを淡々と綴る著者の文章のギャップがなんとも言えない魅力を醸し出している。しばらく絶版となっていたが、昨年復刊され、新潮文庫に収録された。
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怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道

高野秀行「怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道」

ある意味、すごいノンフィクション。

デビュー作「幻獣ムベンベを追え」から未確認動物を旅の一つのテーマとしてきた著者は、あるウェブサイトで、インドの浜辺で謎の魚を見たという投稿を見つけ、インド行きを画策する。

事前調査・準備という旅の助走の描写がやけに長い。そして本の半ばを過ぎたところで最大の関門である、インドに入国できないという問題が立ち塞がる。著者は「西南シルクロードは密林に消える」でインドに密入国、強制送還されており、その記録が残っていたのだ。
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食べ歩くインド

小林真樹「食べ歩くインド」北・東編 南・西編

 

すごい本である。インドの多様な食を紹介――といっても、研究者による食文化論ではない。タイトル通り、全インドを食べ歩くためのグルメガイド。かなり分かりやすく書かれているが、それでもニハーリーやクルチャーなどなじみのない言葉が次々と出てきて、文章を読みながら、異文化の中を旅している気分になる。「北・東編」「南・西編」の2分冊でボリュームたっぷり。旅行人の情報量の多いガイドブックを開いた時の興奮を思い出した。
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四畳半タイムマシンブルース

森見登美彦著、上田誠原案「四畳半タイムマシンブルース」

名著「四畳半神話大系」の16年ぶりの続編にして、久しぶりの“腐れ大学生”もの。といっても前作の後日譚を描くのではなく、外伝、二次創作的な内容。劇団「ヨーロッパ企画」の名作「サマータイムマシン・ブルース」を「四畳半」の世界に翻案し、おなじみのキャラがタイムマシンを巡る騒動を繰り広げる。
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