ロートレック壮事件

筒井康隆「ロートレック壮事件」

ロートレックが多数飾られた別荘で起こる殺人事件。

ロートレックの作品が随所に挿まれ物語を彩るとともに、人物描写に著者らしいユーモアがあり、人間模様の面白さに引き込まれる。

最後に明かされるミステリーとしての仕掛けについては、フェアかアンフェアか意見が分かれそう。
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人間

又吉直樹「人間」

アーティスト志望の若者たちが集まる共同住宅で暮らした日々。その頃に起こしたある事件を巡る苦い記憶。主人公は30代の終わりに差し掛かった男だが、青春時代の記憶に囚われ、自意識を持て余す彼の物語は「火花」「劇場」と同様、一種の青春小説と言っていいだろう。
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屍人荘の殺人

今村昌弘「屍人荘の殺人」

ゾンビに囲まれた湖畔のペンションで殺人事件が起こる。パニックホラーと本格ミステリーの見事な融合。

本格ミステリーは謎解きが肝である以上、ファンタジーや非現実的な要素を入れると興醒めになりかねない。一方で、話が面白ければ細かなことは気にならないのも小説。本作はとにかく面白い。
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Another2001

綾辻行人「Another2001」

学園ホラー×本格ミステリーの「Another」(2009年)、「Another エピソードS」(13年)に続くシリーズ最新作。前2作の3年後、おなじみの夜見山北中学を舞台に、スケールアップした“災厄”が登場人物たちを襲う。人気作の続編だが、期待を裏切らない面白さ。800ページ超を一息に読み終えた。

ホラー作品には、現実離れした設定がつきもの。そこで「あり得ない」と興醒めになるものもあれば、あり得ないからこそ想像力が刺激されることもある。「Anotherなら死んでた」がネットスラングとして流行った本シリーズは、まさに後者だろう。「死に引き込まれやすくなる」という“災厄”の設定が秀逸。
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昨日星を探した言い訳

河野裕「昨日星を探した言い訳」

いわゆるライトノベルを中心に書いてきた作家だが、作品のテーマは真摯で重い。

物語の舞台は、被征服民にルーツを持つ「緑色の目」の住民への差別、偏見が根深く残っている架空の日本。全寮制の学園に通う坂口孝文は緑の目を持つ転入生、茅森良子と知り合い、次第にひかれていく。
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百年と一日

柴崎友香「百年と一日」

33の物語。いずれも短編というより掌編の短さだが、まずタイトルの長さが目を引く。

冒頭に収められているのが「一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話」。
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一人称単数

村上春樹「一人称単数」

どれも著者自身を思わせる一人称の人物が語り手。久しぶりの一人称で書かれた前作長編「騎士団長殺し」がセルフパロディのような要素をたくさん盛り込みつつ、以前の作品とは決定的に違う手触りになっていたように、短編も一周回って別の場所にたどり着いたような著者の今を感じさせる。
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破局

遠野遥「破局」

体育会系の青年。一見すると心身共に健康で、人当たりも良い人物だが、読んでいてどこか気持ち悪い。他者に(どころか自分に対しても)興味がなく、目の前のことにだけ反応して生きている。

「他者に迷惑をかけないが自己中心的」という人物像は、極めて現代的。
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