どれも著者自身を思わせる一人称の人物が語り手。久しぶりの一人称で書かれた前作長編「騎士団長殺し」がセルフパロディのような要素をたくさん盛り込みつつ、以前の作品とは決定的に違う手触りになっていたように、短編も一周回って別の場所にたどり着いたような著者の今を感じさせる。
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破局
体育会系の青年。一見すると心身共に健康で、人当たりも良い人物だが、読んでいてどこか気持ち悪い。他者に(どころか自分に対しても)興味がなく、目の前のことにだけ反応して生きている。
「他者に迷惑をかけないが自己中心的」という人物像は、極めて現代的。
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ボーイミーツガールの極端なもの
怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道
ある意味、すごいノンフィクション。
デビュー作「幻獣ムベンベを追え」から未確認動物を旅の一つのテーマとしてきた著者は、あるウェブサイトで、インドの浜辺で謎の魚を見たという投稿を見つけ、インド行きを画策する。
事前調査・準備という旅の助走の描写がやけに長い。そして本の半ばを過ぎたところで最大の関門である、インドに入国できないという問題が立ち塞がる。著者は「西南シルクロードは密林に消える」でインドに密入国、強制送還されており、その記録が残っていたのだ。
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四畳半タイムマシンブルース
名著「四畳半神話大系」の16年ぶりの続編にして、久しぶりの“腐れ大学生”もの。といっても前作の後日譚を描くのではなく、外伝、二次創作的な内容。劇団「ヨーロッパ企画」の名作「サマータイムマシン・ブルース」を「四畳半」の世界に翻案し、おなじみのキャラがタイムマシンを巡る騒動を繰り広げる。
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太陽と乙女
2003年のデビュー以来、さまざな媒体で書いてきたエッセイをまとめたもの。文庫版約500ページと大ボリュームで、仕事、趣味、日常、生い立ちと話題は多岐にわたる。
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童の神
タイトルの童は子供ではなく、まつろわぬ民のことを指す。鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥などの名で呼ばれ、京人(みやこびと)から恐れ、蔑まれた人々。彼らが手を携え、朝廷に立ち向かう。
朝廷による蝦夷征討が一種の侵略であるという理解は今では珍しくないが、著者は大江山の鬼退治伝説に注目し、京周辺の被征服民に光を当てる。
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紙の動物園
さほどSFを読まない身からすると、SFと言われると、どうしても、科学、未来、宇宙、のような言葉が思い浮かぶ。そして、たまに手に取ると、その多彩さに驚かされる。サイエンスに想像力を働かせるだけでなく、サイエンスの制約から想像力を解き放ったフィクションもSFなのかもしれない。
本書は中国出身の米国人作家、ケン・リュウの日本オリジナル短編集。ベスト盤のようなものだから、面白くないわけがない。
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